鐘つき聖堂の魔女
けれどライルはいつまでも家にいるわけではない。
いつの日かライルが出て行った時、またいつもの食生活に戻ることができるのだろうかと考えたが、きっと無理だという結論に至った。
ライルの素朴だがおいしい料理を食べて肥えてしまった舌は、きっと何を食べても物足りなく感じるのだろう。
だったら自分でライルの料理に近づけるよう努力すればいいのだ。
リーシャは決意を新たに、そう意気込んだ。
気持ちを新たにしたリーシャは、早速行動に移すため、ゆっくり食事を食べながら黒曜の間から魔女たちが帰って行くのを待った。
そして、最後の一人が黒曜の間から出ていくのを確認すると、お盆を持って立ち上がる。
食べ終わった皿はお盆ごと返却口へ返すのが習慣化されているが、厨房の様子は分からない。
返却口が胸の高さくらいの位置にあり、必要最低限の大きさで作られているのは、魔女を恐れる使用人に対して配慮しているためだ。
リーシャがお盆を返却口へ返すと、数秒後厨房から手が伸びてきた。
リーシャはその機会を逃すまいと、伸びてきた手を掴む。
「きゃっ!」
「あ、あの!」
厨房に響くほどの悲鳴は若い女のもので、リーシャはすかさず屈んで厨房の中をのぞいた。
すると、やはり若い女がおり、オオカミに睨まれたウサギのように怯えた瞳をしていた。
「ッ!ご、ごめんなさい!」
リーシャをとらえると、少女はビクリと体を震わせ、何故か謝罪を口にした。