鐘つき聖堂の魔女
「ほらよ」
「ありがとうございます」
この日のレッスンで使う食材が入った麻袋を店主から受け取ったリーシャは代金を店主へ差し出す。
店主は代金を受け取りながら、リーシャを見てニヤリと笑う。
「最近は一人が多いな。旦那は仕事かい?」
「だ、旦那じゃないです!」
冗談と分かっていても上手い返しが出来ないリーシャはいつも真っ赤になって否定した。
その時、リーシャが大袈裟に手を振った拍子に、持っていた籠が通行人にあたった。
「っ…」
「ッ!ごめんなさい」
小さく息をつめた声が聞こえ、振り返ると地面に尻餅をついた少女がいた。
十代前半とみられる少女はまるで雪のように白い髪をしており、魔女とはまた別の意味で皆の目を引いている。
俯いていた少女が顔を上げると、燃えるようなルビーの瞳と目が合う。
明らかに警戒をしている少女の瞳の奥には不安や怯え、そして嫌悪が見えた気がした。
「大丈夫かい?」
「私は大丈夫です。けどこの子が…」
籠があたった拍子に転げたのか、少女の腕や肘の所々には擦り傷が出来ていた。
「ちょっと待ってろ」
傷口から滲み出ている血を見た店主は店の奥に行き、小さな筒状の缶を持って帰ってきた。
「ほれ、傷薬だ。塗ってやれ」
「ありがとうございます」
傷薬を受け取ったリーシャは少女の視線に合わせるように座る。
すると、少女は突然至近距離に来たリーシャに驚き、逃げるように体を後退させた。
リーシャには少女が毛を逆立てて威嚇する子猫のようにみえ、少し微笑ましかった。