鐘つき聖堂の魔女
「ごめんね。私が急に動いたからよけきれなったのよね。これ傷薬なんだけど、塗ってもよいかしら」
缶の蓋を開けたリーシャは傷薬だということを少女に示す。
少女は缶の中身とリーシャの顔を交互に見て、怪訝そうな表情をする。
少女が傷薬を怪しんでいることを悟ったリーシャは溜息をひとつ吐き、突然自分の腕に爪で傷を入れた。
「おい!リーシャちゃん!」
躊躇わず体に傷を入れるリーシャを見て、少女は驚き、呆気にとられる。
対するリーシャは店主の心配そうな声を聴きながら、腕から流れる血を袖口でふき取り、傷口に傷薬を塗った。
「これが傷薬だって信じてもらえた?」
少女は呆気にとられた表情のまま頷いた。
「じゃぁ、腕を出して。傷薬を塗らないと跡が残ってしまうから」
傷薬だと分かったものの、まだ躊躇う様子を見せる少女。
しかし、少女の表情にもう怯えた様子はないことを確認したリーシャは少女に手を差し伸べる。
「大丈夫よ、最初に少しひりっとするだけだから。ね?」
少女は自分に向けられた笑顔に目を丸くして、こそばゆい感覚を紛らわせるようにリーシャから視線を外す。
髪と同じく白く透き通る頬は赤かった。
そして、それまで頑なだった少女が自分の腕を持ち上げ、リーシャの前に差し出す。
それが顔をそらしたままだったことにリーシャは気づかれないようにクスっと小さく笑いながら少女の腕をとる。
腕についた砂をよく払い落とし、綺麗な水で血を洗い落す。