鐘つき聖堂の魔女
「なんというか…驚きました。演じているときとはずいぶん雰囲気が違って」
「そりゃぁプロだからな。舞台の上ではなんとやら、だろう」
さすがは世界のルブタ劇団。演技力は伊達ではない。
「まぁあの子は特殊だろうな。それより、旦那はどこだ?」
ニカっと白い歯を見せて笑う店主にリーシャは呆れ顔をつくる。
「おじさん、しつこいですよ。旦那じゃないですってば。同居人です」
「すまんな、リーシャちゃんの反応が面白くてつい」
両手を前に合わせて謝っているもののまるで反省の色が見えない。
確信犯のくせにからかって反応を楽しむ店主にリーシャは溜息を吐いた。
「ライルはお出かけです」
「なんだ休日だってのにリーシャちゃんを置いて一人で出かけたのか?」
「えぇ、そうよ」
急に真剣な表情になった店主に少し面食らいながらもリーシャはケロリとそう答えた。
すると店主は手を額にあて「そりゃいけねぇ」と空を仰ぐ。
リーシャは意図が分からず怪訝そうな表情をすると、空を仰いでいた店主が勢いよく距離を詰め、リーシャの手を取った。
「休日は男を一人にさせちゃいけねぇぜ。浮気されねぇようにしっかり手綱を引いとかねぇとな」
何を言うのかと思えば、店主の経験上のアドバイスとしか取れない忠告にリーシャは乾いた笑みを浮かべた。
「今度会ったら俺からもいっといてやるよ。リーシャちゃんを裏切ったら俺が許さねぇってよ」
「そんなこと言わなくて結構ですっ!」
帰り際、自慢げな顔をして親指を立てる店主にリーシャは困ったように笑ってそういった。