鐘つき聖堂の魔女
「えっと…もうすぐ九時ですね」
「ッ…帰る。話の続きはまた明日の夜だ」
ノーランドから時間を聞くや否やライルは椅子から立ち上がり、呆気にとられる三人を残してオルナティブを出た。
と思いきやわずか数秒後、もう一度オルナティブのドアベルが鳴り、ライルが顔を出す。
「ヒュクスさん、この時間でもあいてる市場ってありますか?」
「西区の市場ならまだやってるぞ。といってももう閉まるころだろうがな」
「ありがとうございます」
ライルはそういって忙しなくオルナティブを出て行った。
残された三人は嵐のように過ぎ去って行ったライルに各々の反応を見せた。
ヒュクスは冷やかすように口笛を鳴らし、ドナは頭を抱え、そしてノーランドは呆気にとられたままライルが出て行ったドアを見つめていた。
「ライル様があんなに慌てる姿は久しぶりに見ましたね」
「理由聞くと驚くわよ」
珍しいものを見たとばかりに驚くノーランドにドナは気苦労湛えた溜息を吐く。
「何ですか?」
「同居人のご飯を作らなきゃいけないから。しかも女」
「それは……驚いたな。あのライル様が同居…女性と?」
いつも冷静沈着なノーランドが取り乱すことが珍しく、ドナは少し面白がりながら続けた。
「えぇ、そうよ。さっきもいってた、ここに来た時にライル様を助けた人。ライル様は今その女と暮らしているの」
「私はてっきりここにお世話になっているとばかり思っていました」
まだ信じられないのかノーランドは半信半疑でそういった。