鐘つき聖堂の魔女
ライルの無事は伝えていたが、ノーランドの怪我が完治してからはお互い調査で忙しく、住んでいる場所までは伝えていなかったため無理ない。
「ここにいると色々と面倒だからだそうよ。そうですよね?ヒュクス殿」
「あぁ、そうだな。あいつは良くも悪くも目立つからなぁ」
ヒュクスのこの言葉にノーランドとドナは目を見合わせて堪らず吹き出す。
「分かる気がします。本国でもライル様は目立っていましたからね」
「あの頃は適当に煙に巻いてたけど、今はちゃんと愛想笑いを振りまいてるそうよ」
「あのライル様があ、愛想笑い…」
ノーランドとドナはライルがいないことをいいことに声を上げて笑った。
「けどまだ驚くのは早いぜ。どうやらその女はただの人間じゃないらしい」
ヒュクスの勿体ぶったいい方にノーランドはドナの方を見遣る。
するとドナは面白くなさそうに口を開いた。
「帝国の魔女なのよ。私の推測だけど」
「それはまた…珍しいこともあるものですね。まぁライル様は魔女に対して抵抗があるわけではないですからね」
意外なことにノーランドは小さく笑っただけだった。
ライルが魔女と暮らしているというのにドナはノーランドが笑って済ませる心境が分からなかった。
「ライル様が心配じゃないの?」
「それは少しは心配ですが、なんといってもライル様ですからね。あの方が敗北する姿など一度も見たことがありませんし。あ、古の魔女は別ですよ。あれは不意を突いた呪いでしたから。一介の魔女ならライル様の足元にも及ばないことくらいドナさんにも分かっているでしょうに」