鐘つき聖堂の魔女
オルナティブで三人が談笑している頃、ライルは西区で買い物を済ませ、南の森にあるリーシャの家に向かっていた。
モリアの西区からリーシャの家までは約五キロ。歩いて一時間。走っても十五分から三十分といったところだ。
しかし、時間は既に九時二十分を過ぎようとしており、ライルは焦っていた。
(仕方ない…“呼ぶ”か)
ライルは南の森につながる外門をくぐり、人影のない森の中に入ると服の袖を捲し上げる。
すると上腕部まで露わになった右腕に手の甲から植物が弦をまいたような幾何学模様が浮かび上がる。
弧線と渦線を描きながら伸びていく模様は途中、いくつかの同円心の中に複雑な紋様を描きながら上腕部へ達した。
(こんなことで力を使ったと二人に知られたら顔を青くして怒られるだろうな)
ライルはノーランドとドナに怒られる自分の姿を頭に浮かべて苦笑しながら、すべての模様が腕に刻まれたことを確認する。
「さぁ、もう起きる時間だ。お前たちもこの二か月ゆっくり休めただろ」
鬱蒼とした静かな森にライルの声が響くと、紋様のひとつが光る。
「来い、イグドラシル」
一陣の風が吹き、木々がざわめく様は森が震えているようだった。
そして、光によって伸びた影から現れた存在にライルはフッと笑って振り返った。