鐘つき聖堂の魔女
時間は遡り、ライルがオルナティブを離れた頃、南の森の小さな家には小さな灯りがともっていた。
家の中ではリーシャが時計の針を見ては出入り口と居間を行ったり来たりを繰り返していた。
(ライル…遅いな……)
時刻は既に九時半。仕事ならまだしも休日にこれほどライルの帰りが遅くなったことは初めてだった。
迎えに行こうにもあてはなく、気持ちばかりが焦り、家の中をぐるぐる歩き回っている。
静寂に包まれる家の中で浮かんでくるのは帰りの遅いライルのことで、どこに行っているのか、誰と会っているのか、どうしてこんなに遅いのかということばかりだった。
そして、そんなことばかりを考えてしまう自分に嫌気がさした。
ライルが誰と過ごし、どこへ行って、何時に帰ろうとライルの自由だと思ったのは自分だ。
ニャァ…と小さな鳴き声に足元を見ると、レットが小さな足取りで近づきリーシャを心配するように足に擦り寄った。
「心配してくれてありがとう」
リーシャはレットを抱き上げ、椅子に座る。
「私たちは帰りを待つしかないよね」
リーシャは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、レットはややふて腐れた顔をしてリーシャの膝の上で体を丸めた。
待つこと三十分後、リーシャが時計を見つめていると勢いよく家の扉が開かれた。
「ただいま」
「お帰り、ライル。お疲れさま」
片手に麻袋を抱え、息を上げて入ってきたライルにリーシャは驚いて立ち上がる。
リーシャが立ち上がったため床に降りざるを得なくなったレットはライルを恨みがましい目で見る。
しかし、ライルはその視線を気にする暇もなく、クローゼットの方に向かう。