鐘つき聖堂の魔女
「すまない、市場に寄っていたら遅くなった」
リーシャはライルが持って帰った麻袋から野菜を取り出しながらふと不思議に思った。
「市場っておじさんのところ?こんな時間に開いていたの?」
「いいや、今日はおじさんのところは店じまいしてたから西区の市に行ってきた」
忙しく部屋着に着替えるライルから投げかけられた言葉にリーシャの手がぴたりと止まる。
「西区の市場が閉まる時間もそう変わらないでしょ?」
「あぁ、そうだね。そこも閉まる寸前で売り物もなかったんだけど、売り物にならなかった品を特別に分けてもらえたんだ。これでも十分食べれるし、今日の分だけでも確保できて良かった」
西区の市場といえばその土地柄故、女が商いを構えていることで有名だ。
娼館が立ち並ぶ西区では娼婦との遊びにかまけて店じまいに追いやられた男が多くいたため、女の方が商いを成功させやすいという噂が広がり、今では西区は女の園になっている。
そこでふと思い出されるのが昼間のメリアーデの言葉だった。
先ほどの答えでメリアーデがいっていたことが本当だったことが分かった気がした。
普通、売り物がなければ客を追い返すだろうに、ライルのために商品を持ってきてくれ、しかも譲ってくれたなど、下心があるに違いない。
そうでなければ店じまいの最中に来た客を相手になどしない。
きっとその店主はライルのことを引き留めたかったのだろう。
思えばライルと再会した時も西区の娼婦に客引きにあっていた。
(確かお金は要らないから相手をしてほしい…なんて言われてたっけ)
別に外で食べてもいいのに晩御飯の材料を買うためにライルがわざわざ西区まで足を運んでくれたのは嬉しいが、複雑な気持ちだった。