鐘つき聖堂の魔女
リーシはカルデアをライルに振舞う日のことを頭に思い浮かべ小さく微笑んでいた時、隣から「あ…」という声。
声に引かれて横を向くと、ライルが困ったように笑ってリーシャの手元を指差す。
「リーシャ、それ塩」
「え?……あっ!」
指を差されるままに手元の瓶のラベルを見ると確かに塩と書かれていた。
しかし、時すでに遅し。すでに三杯目の塩が鍋に注がれた後だった。
「………ごめんなさい」
リーシャの声が急激に小さくなる。
「気にしなくていいよ。何か考えごと?」
ライルは優しくそういうが、答えられるわけがない。
ライルに好意を寄せる女性たちに煮え切らない想いを抱いてもやもやとしていた上、任せられた作業が鍋番であることが不満で、けれどそもそも自分は役立たずで、どうしたらライルの負担を減らせるのかを考えていたなど。
「言えないことなら無理して言わなくてもいいよ」
小さな溜息をついてそういったライルは優しくそういう。
ライルは鍋のスープをすくって口に運んだが、やはり塩気が強かったのか、眉を歪めた。
「これはちょっと復活させるのは難しいかな」
せめて一杯だけならまだカバーのしようがあったが、砂糖を入れるところ塩を三杯分きっちり入れてしまったのだから本来の味に戻すのは難しい。
こんな初歩的なことを間違えるなど、つくづく使えない奴だと思われるだろう。
「ごめんなさい……」
「謝らなくてもいいって。今日は夜市に行って食事をすませよう?」
自分の料理を再起不能にされたというのにライルは終始優しい。