鐘つき聖堂の魔女
その優しさが更にリーシャの罪悪感を煽り、俯いた顔を上げることが出来なかった。
リーシャが失敗した鍋を気にかけていると分かったライルは半ば強制的に自分の方を向かせる。
「ほら、顔を上げて」
そっと顎の下を持ち上げリーシャの視線を上に向けると、申し訳なさそうに眉を下げるリーシャ。
親に怒られた子供のようにしょんぼりと意気消沈したリーシャにライルは笑いかける。
「さぁ、行こう。たまには外に食べに行くのもいいじゃないか」
ライルはそういって“ごめんなさい”としか言わないリーシャの手を引き、再びモリアへ向かった。
午後十時半、モリアは仕事を終えた市民や憲兵、他国から出稼ぎに来ている商人たちで賑わっていた。
夜市とは主に飲食を生業とする小さな出店が集まった市場のことで、店舗を構えた料理店よりも安価に食事をとることが出来ることから、広く大衆に受けている。
ライルはリーシャの手を引きながら夜市に並ぶ出店を物色する。
「リーシャは何が食べたい?」
「何でもいい」
ライルは好意で聞いてくれているというのに、あまりに可愛げのない返答だ。
リーシャは自覚していたが、落ち込んだ気分はなかなか回復するわけもなく、自分が失敗して夜市に来たというのに、ライルを押して何が食べたいなど言えるはずもなかった。