鐘つき聖堂の魔女
「じゃぁ、あそこのお店に行こうか。美味しいスープを飲ませてくれる店なんだ。今日は少し寒いから温かいスープで温まろう」
そういって連れられるがままにその店に行くと、ふわりと良い匂いが鼻をくすぐった。
ずっと考えごとをしていて忘れていたが、時間はすでに十時半を過ぎており、空腹感がたちまち押し寄せた。
ごろごろと角切りにされた野菜スープやペンネとグリーンピースが入ったトマトスープ、イラクサのポタージュなど見た目も鮮やかなスープを前にしてリーシャは思わず唾を飲み込む。
どうやらライルが選んだ店はスープ専門の出店のようで、ストックされている様々なスープが十種類以上並んでいた。
ライルは何度か来たことがあるのか、馴染み客のように店主に注文をする。
そしてライルはリーシャの手を握ったまま、木の器に入れられた二つのスープを器用に片手で持ち、夜市の中央にある広場へ移動した。
ぐるりと出店に囲まれた広場には購入したものをその場で食べれるように、テーブルと椅子が設置してある。
広場は人で溢れかえっていたが、運よく二人分の席を見つけたライルはリーシャを座らせ、自分も正面に座った。
「はい。温かいうちに食べよう?」
リーシャはライルに言われるままに木の器を受け取り、そっと口に運んだ。
ライルが選んでくれたのはトマトベースの白インゲン豆スープだった。
晩御飯にしては遅すぎる時間帯にあえて胃に重いものを選ばず、栄養価の高い白インゲン豆スープにしたのはライルの優しさだろう。