鐘つき聖堂の魔女
これにはさすがのライルも様子がおかしいと分かった。
珍しく仕事の話を聞いてきたかと思えば、心ここに在らずといった様子でいつもの笑顔がない。
初めの頃はどこか怯えた様子もあったが、最近では笑顔も見え、心を許してくれていたとばかりに思っていたが、今日はどうしたことか。
こちらに視線を合わせず、伏し目がちに視線を落としている様は、まるで出会ったばかりの頃のようだった。
調味料を間違えてしまったことが原因しているのだろうが、冷静に振り返れば帰った時から元気がなかったような気もする。
いつも表情をくるくると変えては笑うリーシャがこうではこちらも調子が狂う。
美味しいはずのスープもどこか味気なかった。
周囲の喧騒に反して沈黙が続くテーブルで黙々とスープを口に運ぶリーシャ。
(聞くなら今か)
ライルは少し迷った後、静かに口を開いた。
「リーシャは?」
「え?」
脈絡なく投げかけられた言葉にリーシャは反射的に顔を上げた。
必然的に視線が合い、ライルはリーシャの瞳が自分を写したことに高揚する。
「仕事は順調?」
「うん、私も順調…かな」
たどたどしい言葉だったが、リーシャから返事が返ってきたことに手ごたえを感じるライル。
「オルナティブにも宮殿の侍女が時々来てくれるんだけど、敷地内はとても広くて掃除が大変みたいだね」
「東西南北に一キロメートルもある敷地だから一筋縄じゃいかないわ」