鐘つき聖堂の魔女


これにはさすがのライルも様子がおかしいと分かった。

珍しく仕事の話を聞いてきたかと思えば、心ここに在らずといった様子でいつもの笑顔がない。

初めの頃はどこか怯えた様子もあったが、最近では笑顔も見え、心を許してくれていたとばかりに思っていたが、今日はどうしたことか。

こちらに視線を合わせず、伏し目がちに視線を落としている様は、まるで出会ったばかりの頃のようだった。

調味料を間違えてしまったことが原因しているのだろうが、冷静に振り返れば帰った時から元気がなかったような気もする。



いつも表情をくるくると変えては笑うリーシャがこうではこちらも調子が狂う。

美味しいはずのスープもどこか味気なかった。

周囲の喧騒に反して沈黙が続くテーブルで黙々とスープを口に運ぶリーシャ。




(聞くなら今か)

ライルは少し迷った後、静かに口を開いた。




「リーシャは?」

「え?」

脈絡なく投げかけられた言葉にリーシャは反射的に顔を上げた。

必然的に視線が合い、ライルはリーシャの瞳が自分を写したことに高揚する。




「仕事は順調?」

「うん、私も順調…かな」

たどたどしい言葉だったが、リーシャから返事が返ってきたことに手ごたえを感じるライル。


「オルナティブにも宮殿の侍女が時々来てくれるんだけど、敷地内はとても広くて掃除が大変みたいだね」

「東西南北に一キロメートルもある敷地だから一筋縄じゃいかないわ」


< 146 / 180 >

この作品をシェア

pagetop