鐘つき聖堂の魔女
三年戦争とは、三十年前に起こったドルネイとネイアノールの三年にも及ぶ戦争のことをいう。
互いに全軍を注ぎ、兵士から魔術師、魔女を巻き込んだ大戦として名高い争いだった。
三年戦争は互いの兵力と資源の消耗による終結を迎え、表面上は和平調停を結んだ形となったが、水面下では互いを牽制し合っており、今でもお互いの仲は良くない。
「巷では皇帝の次の目的はネイアノールの制圧という噂だけど、宮殿内に何か変わった様子はない?」
「そんな噂が流れているの?」
リーシャは一般人であるライルからネイアノールの制圧という言葉が出てきたことに驚きを隠せない。
気まずそうにしていたことなど忘れたかのように、ライルをしっかりと見据える。
(これは少し踏み入った話題だったか)
ライルはリーシャに警戒させないよう表情を変えずに続ける。
「うちのお客さんが最近ネイアノールとの国境付近に軍が派遣されているって話してたから、宮殿内にいるリーシャたちも大変なんじゃないかなって思って」
「派遣っていっても兵士と、魔女だけだから、侍女には影響はないわ。それより、それは誰が噂していたの?」
「うーん…名前までは分からないな。個人的な情報を飲み屋で聞くのはタブーだからね」
詰め寄るように身を乗り出すリーシャにライルは綺麗に受け流した。
情報提供者の身元は全て調査済みだが、万が一リーシャから上に伝わると裏で動きにくなるためだった。
「けど、何故皇帝はネイアノールに軍を派遣したんだろうな。ドルネイとネイアノールの関係は良好とまではいかないが、お互いの利害が一致する形で保ってきたはずだろう?」
ライルの問いは尤もであり、リーシャはすぐに返答せず、言葉を選ぶように口を開いた。