鐘つき聖堂の魔女
「今回の軍の派遣はネイアノールと戦争をするためではないと思う」
「何故そう言い切れる?現に兵士と魔女が動いているんだろう?軍が派遣されたと聞けば、皇帝がネイアノールも手中に収め、更なる国土拡大を考えていると思うはずだ」
「それは…」
ライルの正論の前にリーシャは反論の言葉がない。
「軍の派遣がネイアノールでないとすれば別の目的があるということなのか?」
それまで難しい顔をしていたリーシャが目を見開き、わずかに動揺を見せたのをライルは見逃さなかった。
(古の魔女とは限らないが、ネイアノールの国境付近には“何か”あるな…)
今を逃せば再びリーシャから内部情報を聞くことは難しいだろうと判断したライルはリーシャの答えを待たずに口を開く。
「ネイアノールの資源。いや、ドルネイは資源国だからこれはないか。例えば……他国に多大な影響を与える“何か”…とか」
ライルはリーシャの表情を伺いながらゆっくりと言葉を並べた。
続けざまに並べられた言葉とライルの鬼気迫る表情にリーシャは圧倒され、押し黙った。
リーシャが僅かに怯えている様子を感じたライルはハッと我に返る。
「すまなかった。質問攻めだったな」
慌てて冗談めいた笑いをつくると、リーシャはほっと安堵した様子で小さく笑う。
「ううん、ちょっとびっくりしただけ。なんだか一瞬ライルが別人に見えて…」
「別人か…」
そう呟いたライルの表情はわずかに曇り、伏せた金色の瞳はテーブルの蝋燭の揺らめきを映し哀愁を帯びた。
リーシャは自分が知らないライルの表情を見て、ライルがあっという間に遠い存在になったかのように感じられた。