鐘つき聖堂の魔女


「ライル?」

伺うようにそっと呟かれたリーシャの声にライルは顔を上げる。

その表情は柔らかで、いつものライルだった。




「いや、何でもない。スープだけじゃ物足りないだろう?パンを買ってくるよ」

「私も行く」

立ち上がったライルの後を追うようにリーシャも立ち上がる。

一瞬見せたライルの憂いに、漠然とした不安を覚えた。


しかし…――――

「リーシャはここで待ってていいよ。俺がとってくるから」

有無を言わせない言い方にリーシャはそれ以上何も言えず、「分かった」と小さく呟き、椅子に座った。

ライルは固く手を握った両手を膝の上に置き、肩を落としたリーシャをなるべく視界に入れないようにその場を足早に離れる。



そして、少し歩いた先で、後ろ髪を引かれるように振り返った。

リーシャはこちらを見るわけでもなく、スープに口をつけるわけでもなく、先ほどの恰好のまま座っていた。

その姿を視界に入れ、ライルは罪悪感に心が痛んだ。

先ほど、早口で捲し立て、リーシャを突き放すように立ち去ったという自覚があったためだ。




(別人だといわれたくらいで何だというんだ…大人げない)


自分の都合を優先するあまり答えを急いて、本来の性分を隠しきれなかった自分に非がある。

ライルは自分自身を戒めるように心の中でそう吐き捨て、踵を返した。

しかし、ライルはこの時、苛立ちの理由が別にあることに気づいていた。



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