鐘つき聖堂の魔女


ライルがパンを買いに席を離れた後、リーシャは飲みかけのスープを前に反省していた。

反省の内容は自分のライルに対する態度についてだ。

料理を失敗したことを気遣って色んな話題を振ってくれたにもかかわらず、ろくな返答もせず、愛想笑いのひとつもできなかった。

おまけに、自分が皇帝の侍女だという設定まで忘れており、不甲斐ないにもほどがある。



(ライル…笑ってたけど呆れてただろうな…)


リーシャは重々しく溜息を吐いて、のろのろとした手つきでスプーンを手に取る。

そして、食べかけのスープを口に運ぼうとした時、がやがやとした喧騒の中から怒号が耳に届いた。





「ふざけんなよクソガキ!てめぇ死にてぇのか?」

「悪いのはそっちだろ!」

野太い男の不穏な言葉に負けず劣らず返す声に聴き覚えがあったリーシャは慌てて席を立ち騒ぎの中心へ駆け出す。

聞き間違えであってほしいと願ったリーシャだったが、野次馬をかき分けて見えてきた光景に冷や汗が浮かんだ。

好奇心で引き寄せられた野次馬が囲っていたのは恰幅の良い二人の男と老夫婦、そして…―――




「ジャン!」

「リーシャ?」

二人の男を見上げるように睨んでいた少年がリーシャを振り返る。

リーシャは男たちと対峙していたのがジャンだと分かり、咄嗟に周りを見る。

すると、野次馬の中に建国祭で一緒にいたジャンの友人がいた。

おそらく今夜も両親に内緒で家を出てきただろうことは容易に想像できた。



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