鐘つき聖堂の魔女
「ジャン、何があったの?」
「こいつらがこの人たちの席を取ったんだ!後から来たくせに」
ジャンに指をさされた男たちのうち、短髪で目つきの悪い方の男がずいっと前に出る。
「誰が誰の席を取ったって?ここはそいつらの指定席じゃねぇんだ。俺らが座る権利もあるだろ」
真上から見下ろす圧力は相当なものだろうが、それでもジャンは怯まなかった。
「けどちゃんと札を置いてただろ!」
「札?いいやそんなもんは見てねぇな」
男たちは目を見合わせてにやりと口の端を上げて笑う。
リーシャは興奮した様子のジャンと三人掛けのテーブル、老夫婦、男たちを見て納得した。
夜一の広場は人々が多く集まる場所であることから皆、食事と引き換えにする木札に自分のものであるという印をつけテーブルに置いて別の店を見に席を離れることがある。
木札があるテーブルは“先約有”という証であり、その席には座らないことが暗黙の了解だった。
しかし、この険悪な雰囲気の状況を鑑みるに、男たちが老夫婦の席を取ったところ、正義感の強いジャンが黙っていられず出てきたのだろう。
「ジャン、この人たちの札が置かれていたのを見たの?」
「いや、札が置いていたとこは見てないけど、この人たちが暫くここに座っていたのは見たんだ。戻ってきた時、こいつらが座ってて困った様子だったから…」
リーシャが優しく問いかけるようにそういうと、ジャンは自信なさげにもごもごとそういった。
決定的な場面を見ていないのならジャンに分が悪いと思ったリーシャは渦中の人物である老夫婦を振り向く。