鐘つき聖堂の魔女
「じゃが、リーシャは今まで多くの人間を信じては裏切られた…」
哀愁を帯びたオリバー瞳は少し悲しげに伏せる。
「そのリーシャが自分の家に人を迎え入れ、一緒に暮らしているんじゃ。しかも男のお前さんと。お前さんに見限られたらリーシャは今度こそ立ち直れなくなるじゃろう」
ライルは少なからず罪悪感を抱いた。リーシャが魔女だからといって今更どうということはないが、ここにいるのは古の魔女の情報をリーシャから得るためだ。
自らの呪いを解くために背に腹は代えられないにしろ、こういわれてしまえば罪悪感を抱かずにはいられない。
「リーシャはな、何度裏切られたって泣きはせんかった。いや、陰では泣いとったかもしれんが、わしの前ではひとつとして涙を見せたことはなかった…。じゃが、わしには聞こえるんじゃ。リーシャの心の悲鳴が。誰でも昨日まで普通に接していた者から無視されるようになったら辛いじゃろうて」
オリバーは過去に心を馳せ、声を落とす。
「わしには子供がおらんでの。リーシャは娘のように可愛がってきた。血は通ってはおらんが、リーシャには幸せになってもらいたいと思っておる」
オリバーは長い溜息をついた後、ライルの複雑な表情を見て困ったように笑った。
「お主には重い話じゃったか。年寄りの戯言と思って聞き流して良いぞ?」
「俺は…」
「何も言わんでいい」
固く結んでいた口を開くが、オリバーは静かに制した。
「魔女と聞いてなお、ここに戻ってきたお主を信じよう」
「リーシャもあなたも人を信じすぎるにもほどがありますね。本当に」
「何のとりえもない爺じゃが人を見る目はある方じゃて。何より長年男には関わらんかったリーシャが傍におることを許した相手じゃからな。信じるほかないわ」
豪快に笑うオリバーに戸惑うライル。