鐘つき聖堂の魔女
眼前にはモリア城下町の中心の小高い丘の上にそびえたつ荘厳な城があった。
細部にわたって贅沢の限りが尽くされたその城は東西と南北に一キロメートルはある丘の敷地を余すことなく使い、建てられたものだ。
高い壁に囲まれた敷地内にはいくつもの庭園、温室、乗馬場、協会、そして宮殿がある。
丘の上の敷地は間違いなくドルネイ帝国の王族が住まう城であり、リーシャの目的地だった。
リーシャは城を前にして降下していき、北側の裏門を目指す。
近づいてみないと分からないが城には薄いベールの様な魔法障壁があり、これに触れれば浮遊魔法程度の魔法は瞬く間に消え、地面に叩き付けられるのだ。
「リーシャ様!」
門番の少年が下りてくるリーシャを見上げてほっと安堵したような表情をする。
リーシャは相変わらずの仰々しい呼び方に恐縮しながら「遅くなってごめんなさい」と小さく声をかけて、裏門の前に下りる。
「お待ちしておりました。皆様お揃いですよ」
ふわふわとした蜂蜜色の天然パーマが印象的なその門番の少年は怒ることなく裏門を開く。
そのキラキラとした笑顔は眩しいくらいで、見ている者まで晴れやかな気持ちにさせるような笑顔だが、この裏門をくぐった先に待ち構えているものを頭に浮かべたリーシャにとっては少年の笑顔も霞むくらいどんよりと憂鬱な気持ちになる。