鐘つき聖堂の魔女
裏門をくぐると、目の前には広い庭園と敷地内を流れる川が目に入る。
丘の上に立つ城内に川があるなど普通ならあり得ないが、この不思議な現象も魔女の魔法によって成し得ているものだった。
その昔、現皇帝の祖先が城を建てた時に城内に川をつくり、ゴンドラを浮かべたいなどという贅沢極まりない発言を受けて魔女がこの丘の上まで水を引いたことがことの発端らしい。
当時の皇帝が崩御した後も、川は維持され、今では他国からの賓客や貴族をもてなすための見世物のようになっている。
川にかかった石橋を渡った先には宮殿がそびえ立ち、見知った彫刻がお出迎えしてくれる。
帝国の主張と威厳、財力の誇示にリーシャはうんざりとしながら宮殿に足を踏み入れた。
中央棟二階、閣議の間の扉前で一呼吸おく。
「失礼いたします」
外から声をかけ、扉を叩いて部屋に入ると、がやがやとした喧騒がぴたりと止む。
長机を囲んだ人々は皆軍服を纏い、硬い表情のままリーシャに視線が集まる。
中でも一際険しい表情で睨む視線を受けて、リーシャは先手を打って深々と頭を下げた。
「遅くなって申し訳ございません。リーシャ・リベリア只今到着致しました」
「遅い。どの身分で遅刻してきたのかしら」
「申し訳ございません」
「あら、だんまりを決め込むつもりね。大事な定例会議に遅れるなんて許さなくてよ」
どうせ今日も実のない会議をしていたんだろうという言葉は喉の奥で止めておいた。
落ち着いた声でチクチクとリーシャに小言をつきつけたのはドルネイ帝国で最も力のある魔女アリエラだ。