鐘つき聖堂の魔女


アリエラが名実ともにドルネイ帝国で最も有力な魔女だといわれる理由は二つある。

一つはその力だ。幼少のころより帝国の魔女として修練、教育されてきたアリエラは元々魔力の源泉マナに恵まれ、力の使い方を頭に叩き込まれている。

リーシャをはじめ同族の魔女でさえ、アリエラに逆らえば明日はないと思っている。




そしてもう一つの理由は…――――


「そう怒るなアリエラ」

「ロードメロイ様」

「可愛い顔が台無しだぞ?」

甘いテノールの声でアリエラを宥めたのは宮殿のそこかしこの彫刻や肖像画のモデルになっている男だった。

言わずもがな、モデルにされているロードメロイはドルネイ帝国の現皇帝である。

先帝の早すぎる死に、二十四という若さで皇帝を継いだ形となったロードメロイはドルネイ帝国の歴史上、最も若くして皇帝に就いた男だ。

その地位と権力のみならず、甘いマスクとほだされる様な物言いに多くの女が篭絡されたことだろう。

かくいうアリエラも信者と呼べるほどロードメロイに心酔している女の内の一人だ。




「ロードメロイ様、なぜリーシャを庇うのですか。大事な会議に遅れてきたんですもの、罰をお与えください」

当然、自分が愛してやまない男が他の女を庇ったとあれば面白くない。

嫉妬深いアリエラなら尚更風当たりは強く、リーシャも家を出た時点で何らかの罰が与えられることを覚悟していた。


しかし、ロードメロイの考えは違った。


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