鐘つき聖堂の魔女


おっほん。異様に静まった空気をさいたのは、わざとらしい咳払いだった。

この緊迫した雰囲気を壊すとは空気の読めない奴もいたものだと会議に出席していた誰もが思ったが、咳払いをした人物を見て、誰もが納得した。



「そろそろ会議を再開しても良いですかな?」

最高位に与えられる濃紺の軍服をはち切れんばかりに着こなした中年の男が報告書を手に悪びれもなくそういう。

この男の空気の読めなさにはロードメロイも一瞬眉を寄せるが、諦めたように溜息を吐かせるのだからすごい。


「続けてくれ、ヴァイス大佐」

「では我が軍の国境警備班から報告が上がってきたのでご報告いたします」

ロードメロイの呆れ顔に特段気にした風もないヴァイスは鼻歌でも歌い出しそうなほど機嫌良さ気に報告書を捲る。

報告書はいつもよりも分厚いことを鑑みるに、何か国内で良からぬ問題が起こったのだろう。

そして、それは血気盛ん、闘争心旺盛なヴァイスにとって格好の餌に違いない。

頭が空っぽで空気の読めないこの男が何故大佐の地位まで上り詰めたのか、それはこれまでの戦歴が物語っている。




ドルネイがレイアードの二大帝国のひとつと謳われる様になった歴史の裏には他国侵略による国土拡大があった。

元は二十数か国もあった国々は支配、淘汰、連合国となり今や七か国となった。

ドルネイ帝国は元はとても小さな国だったが、他国を侵略し、植民地化することによって国は帝国と呼ばれるまでになったのだ。


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