鐘つき聖堂の魔女
定例会議を終えたリーシャは帝国魔女たちが一堂に会する黒曜の間に赴くと、魔女たちの間ではすでに国境の魔法障壁が破られた話題で持ちきりだった。
ドルネイ帝国が抱えている魔女の数はおよそ三十人だが、中でも定例会議に参加できるのは一握りの魔女だけ。
そのため、黒曜の間に寄ったリーシャに事の真相を確かめようと多くの魔女が集まった。
守秘義務によって会議の内容を口外することが出来ないリーシャはさっさと食事を済ませて逃げるように宮殿を後にしたのだった。
宮殿を後にしたリーシャは郊外に降り立った後、ある場所へ向かった。
髪と瞳の色はそのままにリーシャが向かった先は首都モリアのシンボルともいえる大聖堂。
モリアに在って最も歴史が古く、高くそびえたつ二つの尖塔にはそれぞれ鐘が取り付けられている。
夕日が沈みはじめるこの時間帯になるとリーシャはよっぽどのことがない限りこの大聖堂にきて、鐘を鳴らすことが子供の時からの習慣になっていた。
ロードメロイの命で始めたのがきっかけだったが、元々リーシャの母が鐘を鳴らしていたことに起因するらしい。
最初は嫌々来ていたリーシャも、母も同じ仕事をしていたのだということを知ってからはほぼ毎日聖堂へ足を運んでいた。