鐘つき聖堂の魔女
野菜が嫌いなわけではなく、むしろ体のためにはいいのだろうが、如何せんこの味が駄目なのである。
味わっていては駄目だ。これ以上苦味が広がる前に飲み込んでしまおう。
口に含んだエンダイブを一気に下したリーシャにライルは苦笑いを隠せない。
「そういえば、リーシャは何の仕事をしてるんだっけ?」
朝食を食べ終わり、皿を下げたライルがリーシャにそう聞く。
久々の朝食に満足して、食後のミルクを飲んでいたリーシャは不意をつかれた。
「えっと…私はその……宮殿で…」
「宮殿?」
「じ、侍女をしているの」
本当のことを言うわけにはいかないリーシャはまた苦し紛れの嘘をついた。
「侍女なら朝早く宮殿に行かないといけないんじゃないのか?」
「侍女といっても私は殿下付きの侍女だし、今日はお昼から出れば良かったと思う」
「国王付き…?」
ライルの声色が僅かに硬くなる。
硬い表情を見せたのは一瞬で、ライルはすぐにいつもの笑みをたたえた表情に戻る。
「宮殿には毎日?」
「えっと…ほぼ毎日。週に二日はお休みがあって、それ以外は殿下つきの侍女のみんなと交代で宮殿入りしているの」
リーシャはロードメロイ付きの侍女の仕事ぶりを思い出しながら説明するのに必死で、ライルの僅かな変化に気付くことはなかった。
「ドルネイは国王一人にたくさんの侍女がついているんだね」
「今は五人…かな。全員で六人いたんだけど最近一人辞めちゃって、常時二人体制だから暫くは穴埋めしなきゃいけなくて…」
「それでほぼ毎日か。部屋を掃除する暇もなくなるわけだ」
意地悪な嫌味にリーシャはムッと口を尖らせライルを見上げた。