鐘つき聖堂の魔女
ノーランドがへまさえしなければ今頃何の苦労もせず偵察が出来たものの、旅人の装いでは動きづらい。
しかも出入国の検査が厳しくなったため、いったん引くにもそう簡単にはドルネイを出ることは出来なくなった。
今回のために作らせた入国証明もネイアノールに問い合わせれば即お縄だろう。
そんな中、帝国軍の憲兵に見つかるよりも前にドルネイ帝国の魔女であるリーシャに拾われたことは幸いだったのかもしれない。
リーシャは侍女と言い張っていたが、ライルは帰りが遅くなった時に城へ向かうリーシャの姿を何度か見ていた。
あんな山奥に住んでいるのはリーシャぐらいで、あそこからモリアに飛んでいく姿を見ればまずリーシャが怪しいと疑う。
そもそも髪の色以外は原型を変えていないためすぐに分かった。
ドルネイ帝国の魔女となるとかなり人から恨まれることもしてきているだろうに、いくら魔女だといえど危険だとは思わないのか。
その上、裏路地で拾ってきた見ず知らずの男を家に泊めるなど警戒心がなさすぎる。
ライルは自分が助けてもらった身だということを忘れて少し苛立ちを覚えていた。
食材の名前や家事全般ができないところをみると、世間を知らないのだろう。
教養は問題なさそうだが、世間一般の知識が欠如しているのは、魔女という境遇からか。
遺伝子上、魔女は自身の子もまた魔女として生まれてくることを分かっていて子を成す。
母親はその覚悟があって生んだはずのリーシャを捨てるとは余程愛情が薄かったとみえる。
リーシャは理由を話したがらないが、リーシャ以外に猫しか住んでいないということはそういうことだ。