鐘つき聖堂の魔女


リーシャの口ぶりではもう長い年月この家で暮らしているようだし、心の傷も癒えているのかもしれないが、それでもやはり勘ぐってしまう。



そして同時に己の古傷が痛む…――――

ライルは胸元の衣服を抉るように握り、遠い記憶を思い出して眉を寄せた。



(リーシャに同情したというのか?…ばかばかしい)


一瞬浮かんだ考えを自嘲して否定し、ライルは家事に取り掛かる。

食べ終わった食器を洗い、洗濯、掃除をするまでの一連の動きは手際よく、主婦も舌を巻くほどのものだ。

もちろんリーシャの分の夕飯の仕込みをすることも忘れない。

飲み屋で働いていると伝えた手前、少なくともリーシャが帰ってくるまでには家を出なければならず、必然的に夕飯は別々になる。

そのため、ライルは毎日リーシャの夕飯の仕込みをしてから家を出ていた。

料理に関しては全く知識のないリーシャのために、あとは温めれば仕上がるところまで準備をするしかないのだ。



ガブリ…――――

手のかかる奴がもう一人…否、もう一匹いた。

レットと呼ばれるその猫は未だライルに懐いていない。

懐いていないどころか益々嫌われているのは気のせいだろうかと思うライル。

普通エサをやる人間には猫撫で声のひとつでも上げて甘えてきそうなものだが、レットは日を追うごとにライルに対しての態度が悪くなり、こうして時々ライルの足に噛みつくのだった。



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