鐘つき聖堂の魔女
「はいはい、お前のエサもちゃんと用意してるから待ってろ」
ライルは睨むようなレットの視線を横目にレットの餌を作りはじめる。
出来上がったものを銀皿に入れて、床に置くといかにも“しょうがないから食べてやる”という顔つきでライルを見上げ、口をつける。
最初は不機嫌な顔つきをしているレットが美味しそうに食べる姿を見てライルは思わず頬が緩み、はっと我に返る。
ライルの本来の姿を知っている者たちがこんなことをしていると知ったらなんというか、考えただけでもうんざりする。
ライルは頭に浮かび上がった取り巻きの顔を振り払うように残りの洗い物を済ませた。
家事を一通り終えたライルはクローゼットから服を取り出し、それに腕を通す。
クローゼットの三段目と四段目はもともと空でライルに割り当てられたものだった。
ちなみに一段目と二段目はリーシャの分なのだが、一段目にはお金や小物類が仕舞われているのみで、リーシャ自身の衣服は一段分で事足りるほどしかなさそうなのだ。
にもかかわらず、リーシャはライルの衣服は十分すぎるほどに揃え、今やライルの服の方が充実してきている。
嫌われていないことは目的を果たす上で良いことなのだろうが、これが尾を引けば面倒なことこの上ないことを知っているライルは複雑な心境だった。
ライルは溜息を吐きながら、服の下に埋もれている剣を取りだす。
商人のくせに剣を持っている理由を説明するのには苦労した。
長剣にもかかわらず“護身用”といって通じたのはリーシャだからだったからだろう。
これは他の誰にも見つかるわけにはいかないため時が来るまで隠しておかなければならない。
ライルは長剣をクローゼットに仕舞い、家を出た。