鐘つき聖堂の魔女


家を出たライルが向かうのは首都モリアだった。

飲み屋で働くというのはあながち嘘ではなく、リーシャに拾われたあの日確かに宿探しをした。

ライルが行動拠点にするための宿を探す際に重視していることはただ一つだけ。情報が得られやすい場所であるか否かだ。

偏に情報が得られやすいといっても様々で、夫が仕事に出て暇を持て余している婦人方の井戸端会議から情報屋が扱っているレベルの場所まである。

しかし、ライルが欲しているのは婦人方のとるに足らない噂話などではない。

かといって敵国で情報屋を訪ねるほど危険なものはない。



己の目的を悟られず、確実性の高い情報を得られる場所を求めてたどり着いた先。それは“飲み屋”だ。

飲み屋であれば兵士や憲兵が自然と集まり、上手く聞き出せばお酒の力も相まって情報を聞き出せる。

しかも国の直轄部隊であるため、持っている情報も確実性が高い。

飲み屋に来るのは大抵、不平不満を持った者たちであり、その愚痴の対象は国や君主であることが多い。

不平不満があるということは、つまりそこにつけ入るすきがあるということだ。

敵国を戦略するためには綻びといえるような弱点はいくら持っていても構わないため、“飲み屋”という場は情報収集にうってつけといえる。

ドルネイ帝国には一般市民に紛れ込んだ工作員がおり、当初ライルはその工作員が営む飲み屋で働くという算段だった。

エレナに拾われるという予想外の出来事がなければ今頃は首都モリアで働きながら情報収集をしていたはずだが、憲兵が多く集まる首都ではなく森の中に潜伏でき、結果的には良かったのかもしれない。


< 79 / 180 >

この作品をシェア

pagetop