鐘つき聖堂の魔女
「お前も早くこの状況になれないと命取りになるぜ?“副団長”様」
「ヒュクスさんの言うとおりだ。下働きの俺が店主であるヒュクスさんを傅かせるなど誰の目にも奇妙に映るからな」
ドナは出かけた言葉をぐっと飲み込み、諦めるように溜息を吐く。
「……分かりました。以後、私のことはドナと」
「あぁ、よろしくな。ドナ」
「こちらこそ、“店主”」
にこやかなヒュクスにドナは口の端を引きつらせながら笑顔を作るのだった。
ドルネイでの生活は始まったばかりだというのにこの先大丈夫だろうかとライルは一抹の不安に駆られた。
不安といえばいつもドナとともに在る姿が見えない。
「ノーランドはどうした。無事か?」
「ノーランドならピンピンしています。しかし、怪我をしていて足手まといになるので宿に置いてきました」
「一週間も伏せているほどの怪我なのか?」
「怪我自体は大したことありませんよ。ノーランドがひ弱なだけです。もう国を離れて九年にもなるのに旅に出るたび生傷絶えないなんて…」
そういって語尾を弱めるドナの顔には口に出さずとも“心配”だと書いていた。
何でもないことのように振る舞っても心の底では心配しているのだ。
「けれどノーランドよりもライル様です!ライル様の方こそ私たちよりも深手を負っていたはず。護衛の身でありながらお護りできなかったなど、セイラン家末代までの恥です」
また始まったとばかりにげんなりとした顔をするヒュクス。