鐘つき聖堂の魔女
「しかし、それは可能性のひとつに過ぎない。警戒は怠るなよ、ドナ」
ライルの言葉一つで空気が締まり、ドナの表情に緊張が走る。
ドナにとってライルは有能で尊敬すべき指揮官であり、そのライルがいうことはすべて絶対。
しかし、ドナにはひとつ気がかりがあった。
いつもは素直に頷くドナだが、一瞬迷った素振りを見せ、恐々と口を開く。
「ライル様こそご自身が今どんなに危険な場所にいるのかお分かりですか?」
「どういう意味だ?」
訝る声が低く響き、ドナは慄く自身を奮い立たせるようにライルを真っ直ぐと見据える。
「ライル様が今厄介になっている女のことです」
「知っていたのか」
ライルは一瞬驚いた顔をしたが、観念したように溜息を吐いた。
「あの女がドルネイの裏路地から森へライル様を連れて行くのを見ていましたから。途中あの女が敷いたと思われる索敵魔法があったので深くは追えませんでしたが、私は確信したんです。あの女は魔女だと」
気を失っている大の大人を軽々と持ち、森の奥深くへ連れて行く姿を見れば誰もが思うだろう。
「そのお顔は薄々お気づきになっていたんですね。けど、あの女はただの魔女じゃありませんよ」
ひとつも驚いた顔をしないライルにドナは大袈裟な口ぶりでそういった。