鐘つき聖堂の魔女
そこでリーシャはふと気づく。自分に向けられた視線に。
恐る恐るその視線を追うと、ライルにセモリア粉を手渡す店主と目が合った。
「お!お嬢ちゃんはあの時の!」
大きな声にビクリと体を震わせたリーシャは咄嗟にライルの陰に隠れる。
瞬間、リーシャを背に庇い、鋭い視線を向けたライルに店主は困った顔をして口を開く。
「す、すまんな。驚かせるつもりはなかったんだ。お兄さんもそんなに怖い顔をしないでくれ」
店主は慌てて弁明したが、ライルは固い表情を崩さなかった。
「お嬢ちゃんとは一度だけ会ったことがあってな。建国祭の夜、裏路地で会ったんだが覚えてないかい?」
そういわれたリーシャはライルの背から店主を覗き込みその顔をじっと見つめる。
引きつった笑みを浮かべる店主を見つめること数秒、思い出したように「あ…」と小さな声を上げた。
「あの時の…酔っ払いのおじさん?」
酔っ払いの、という付け加えに店主はばつの悪い笑みを浮かべながら「そうそう」と答えた。
「知り合いだったんですね。そうとは知らずすみません」
店主とリーシャが見知った者同士だと分かったライルは警戒を解いてすぐにいつもの笑みを浮かべる。
「いいんだって。会ったっていっても一度だけだからな。でもまた会えて嬉しいねぇ。今日は旦那さんと買い物かい?」
「旦那さん?」
リーシャはきょとんと眼を丸くして店主の言葉を反復し、それが誰を指すのか分かった瞬間、顔を赤くして手を前で振った。