鐘つき聖堂の魔女
「おじさん、違うわ。この人は旦那さんじゃないの」
「じゃぁ彼氏かい?」
「ど、同居人!ただの同居人です。そうよね?ライル」
すがるような目で見上げられたライルは少し不満に思いつつも、いつもの笑顔で「そうだね」と答えた。
「ふーん、そうかいそうかい」
「おじさんはこの商売をずっと?いろんなものを売ってるのね」
からかうようなにやにや笑みを続ける店主にリーシャはわざとらしく話題を変える。
「おうよ。最近は卸をやってる若い連中が次々やめちまって、なかなかまとまった数はあつまらねぇんだが品数なら他の店には負けねぇぜ」
なるほど、店主がそういうだけのことはあるとリーシャは思った。
「特にうちの野菜は国中の農家から毎朝直送してるからおいしいぞ。お嬢ちゃんになら特別価格にしてやるよ」
「野菜…」
途端リーシャの声から張りがなくなる。
事情を知るライルは隣でたまらず小さく吹き出した。
「ん?どうした?」
「リーシャは野菜が苦手なんですよ」
「なに!?好き嫌いはいけねぇぜ、お嬢ちゃん」
店主のもっともな言葉にリーシャは何も言い返せず言葉を詰まらせる。
「けど最近は少しずつ食べれるようになったよね?」
こうしてすぐにフォローに回るライルは本当に優しいのだと思う。
きっとこれ以上野菜嫌いに拍車がかからないように励ましてくれているだけのことだと思うのだが、それでも嬉しいリーシャだった。