鐘つき聖堂の魔女
「きっとリーシャは後味に苦みが残る食材が苦手なんだろうな。セロリアックとルバーブが嫌いって言ってたくらいだし」
「けど苦い野菜って体にいいんでしょう。が、我慢して食べるから買ってもいいよ」
一世一代の決意といった様子でそう言ったリーシャにライルは目を瞬かせたあと、声を上げて笑った。
ついでに店主も「お嬢ちゃんおもしれぇな」と言いながら腹を抱えて笑っていた。
リーシャは今の言葉に笑うところがあっただろうかと思いながらムスッと頬を膨らませる。
「笑ってごめん。ふくれっ面をしていると可愛い顔が台無しだよ」
甘い言葉と頭を撫でる手はご機嫌取りのためだと知っている。
「リーシャが苦手な野菜は買わないから。必ずしも苦い野菜だけが体に良いってわけじゃないし、他の野菜でも十分だと思うよ。だから食べれそうなものから選んでいこう?」
ライルはずるい。そんな言い方をされてしまえば頷くしかないではないか。
意地悪を言ったかと思えば、すぐに歩み寄り、優しく促す。
そうして気づけばいつもライルのペースになっているのだ。
リーシャがゆっくり頷くのを確認すると、ライルは何も言わず微笑んだ。
「じゃぁだいたい三、四日間の献立は決まりだな。おじさん、そこのトマトとマッシュルーム、タマネギ、それから…」
ライルが店主に伝える食材がどんな料理に変わるのか予想もつかないまま次々と袋に入れられていく。
結局セモリア粉一袋どころか、麻袋三つ分ほどになった。