鐘つき聖堂の魔女
「ほれ、これはおまけだ」
店主はライルに麻袋を渡し、店先に陳列していた籠のなかから洋ナシを二つとってリーシャに手渡す。
「良かったね。デザートがひとつ増えた」
「ありがとうございます」
洋ナシを大事そうに抱えたリーシャはそういって花が咲きほころぶような笑顔を見せる。
自然と見せたリーシャの笑みに店主は満足そうな笑顔をした。
「これからどこかに行くのかい?」
「特に決めてません」
店主の問いかけにライルが困ったように笑いながら答える。
三、四日の買い物をしようと家を出たものの、一軒目で用向きは済んでしまった。
このまま帰ってしまうのも、もったいないような気がした。
「じゃぁ聖堂前広場に行ってみるといい。今日は郊外からルブタ劇団が来てるってよ」
「ルブタ劇団が!?」
「そんなに有名なのか?」
リーシャの食いつき様にライルが興味を示す。
「とっても有名よ。彼らはレイアードの国々を旅して回っていて、立ち寄った土地で演劇をしているの。彼らが演じた演目は各国で絵本になっているくらい有名なのよ」
かくいうリーシャもルブタ劇団の演じた演目の絵本を何冊か持っていた。
「噂じゃ今回のドルネイでの滞在期間は短いらしいぞ。奴らのことだ、いつまでいるのかも気分次第だからなぁ」
「これを逃したら次にお目にかかれる機会はいつになるか分からないのか」
「そういうことだ。だから行っておいで。荷物は預かっててやるぞ?」
ライルは買い込んだ荷物のことが気になったが、店主の言葉で考え直す。