上司と上手につきあう方法【完結】
本当に乗り物に弱いんだなぁ……。
可哀想に。
バッグから、買っていたミネラルウォーターのミニペットボトルを差し出すと、部長は「ありがとう」とそれを受け取り、あおるように飲み干す。
そんな彼の横顔を眺めながら、彼が眠る前に考えていたことを思い出し、口にした。
「あのですね、私考えたんですけど、やっぱり練習、必要ですよね」
「――練習?」
眼鏡を手に持ったまま、不思議そうに部長が私に視線を向ける。
「はい。とりあえず、『部長』『平尾』じゃ、なんだかおかしいと思うんです。一応、その、恋人……(のフリ)だし」
「――っ……」
私の発言に、無言で表情を引きつらせる部長。そんなに抵抗があるんだろうか。
でも、さすがに身内の前で『平尾』はないと思うのよね。