天使みたいな死神に、恋をした
「そのまえに、ちょっと見て頂きたいものが」
「そのまえって、何」どっちのそのまえなんだろう。
「まあ、来て下さい」のんびりと言う。
いつもとは逆の出入り口から家を出るアンジュラの後ろをただ無言でついていく。
会話も無ければ、アンジュラが私の方を振り返る気配も無い。
以前、へんなもんに連れていかれそうになったあの真っ暗な川が見え始めてきた。そこで足を止めた。
「ここでいつも私は仕事をしています」音も立てずに振り返る。フードの中の顔は相変わらず見えない。
「ここは死んだ者がやってくる川で、まぁ、普通に死んだ程度ならこんなところには来ないんですけれども、ご存知の通り、良からぬことをしてこっち側に来た人に対しては、えーと、それが私の仕事ですから」
「どんな仕事なの」何回か聞こうとしていたことがようやく聞けるようだ。
「でもね、私はそんなに悪いものじゃないんですよ」くっと笑った。
ほどよい距離を置いて、
「知ってる。だから私、なんか、っ、」
一緒にいても……いいかなあって、
少し離れたところにいたアンジュラは一気に私の側にきて、私の唇に人指し指を当てた。その先を言わせなかった。
首を横に振り、言ってはいけませんというように静かに頭を振った。
「そんなことは心配はしなくていいです」
アンジュラは指を離すと、背中に背負っていた鎌をしゅと取りだし、輝かせながら構えた。フードがふわりと背中側に落ちる。
知っている灰色の目は、真っ白になり、さながら獲物にロックオンしたサメのようだ。
まさか私、切られるの?
思わず両腕で両肩を抱いた。一歩後ずさる。
そんな私に一瞥くれると、瞬きを一度、川の方へ視線を向けた。