黄昏に香る音色
ゆうの淡い姿。

夕日が透ける。

明日香は、ゆうの背中を見つめ続けた。


「高校生だった…昔の優一。サッカー部で、グランドから、いつも…渡り廊下の女の子を、見ていた…優一だ」

ゆうは、歩きだした。

明日香も立ち上がり、後に続く。

2人は、渡り廊下にでた。

「いつもここから…彼女は、僕を見ていた。僕のことが、好きだったらしい。僕も…好きだった」

ゆうは、手摺りに近づいていく。

いつもの定位置。

「だけど…それが原因で、彼女は、いじめられることになった」

ゆうは、グラウンドを見た。

「意気地なしの僕は、彼女を助けることも…好きということも、できなかった」

風が吹いた。

「教育実習で、ここに来た日。気がついたら、僕はここにいた。夕方の刻だけ……昔、来たかった…この場所に…」

明日香は、ゆうの話をきいていた。

「そして、出会った…あの時の彼女に、そっくりな君に」

「ゆう…」

「はじめて、名前を呼んでくれたね。ありがとう。でも、勘違いしないで、ほしい。昔の子と、重ねた訳じゃない。純粋に、明日香を好きになった」

ゆうの体が、消えていく。

「だけど…僕は、優一の幻…彼が、去ればいなくなる。幻だけど…明日香を、心から愛してた」

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