黄昏に香る音色
「せ、生徒から逃げてきたんだ!昼休みになると、みんな追いかけてきて…」

優一は、里美より深いため息をつくと、

2人が座るベンチを見つめ、

「それに、この場所は…。高校の時、僕の定位置でね。昼休みは必ず...1人で、ここにいたんだ…」

優一はそう言うと、右側に見えるグラウンドに視線を移した。

一番グラウンドの端であり、簡易テニスコートがあった。

遥か向こうに、野球が使う金網が見えた。


明日香には、遠くを見つめる優一の視線が、

どこか…

恵子に、似ているように感じた。

ダブルケイのアルバムを、見つめる恵子の目に。

それは、遠い過去に思いを寄せる…思い出を探る目。

だけど、とても悲しげな目。

じっと見つめる明日香の視線に気づき、

優一は、我に返った。

「ご、ごめん。邪魔したね」

優一は、深々と頭を下げると、2人の前から立ち去った。


「何よ、あれ?」

里美は、おにぎりを掴んだ手で、優一の後ろ姿を指差した。

「さあ…」

明日香は、優一を見送りながら、ただ首を傾げるだけだった。





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