恋人たちのパンドラ【完】
「本当はね、怖かったの。妊娠がわかったとき」

そう話し始めた悠里を壮介は後から抱きしめて、おなかに両腕を回した。

「もちろんうれしかったよ。だけど自分が妊娠できるなんて思ってなかったから。それに――」

「ん?」

「壮介はきっと喜ばないだろうって」

そう悠里が言うと、腕に力を込めて悠里を抱きしめた。

「どうして?」

「昔はね、9年前だったらきっと喜んでくれただろうなって。だけど今は壮介は私の知ってる壮介じゃなかった。

三国百貨店の専務だし冷たいし、笑わないし。縁談もあるって聞いた」

「確かに俺は9年間自分の殻に閉じこもって出ようともしなかったから。9年前みたいなことがもう一度あったら俺立ち直れない気がしてた。なさけないだろ?」

悠里は左右に首を振り
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