恋人たちのパンドラ【完】
とうの壮介は、ちらりとこちらに目を向けると途端に不機嫌な顔をし、部下の男性に指示をしたあとこちらに近づいてきた。

「徳永さん。昨日は急にご退席されたので、驚きました。お加減はよろしいのですか?」

仮面を貼り付けたような笑顔で悠里に語りかけてくる。

「はい。ご迷惑をおかけしました」

「今後はこういうことされると困るから十分気をつけてほしいですね」

チクリと刺のある言葉を浴びせられている悠里を見て直樹は間に割って入った。
「先日は、失礼があったようで私からもお詫びいたします」

そういって、悠里よりも20センチは高いところに有る頭を下げてくれた。

「町田くん・・・」

悠里は町田のスーツの裾を少し引っ張って、顔を上げるように促した。

「はっ。謝罪も自分でまともにできないから、男性社員についてきてもらったのか。これだから甘えるばかりの女性は困るんだ」

直樹の謝罪を受けて、ますます機嫌が悪くなった壮介は悠里に対してなおも冷たい言葉をかけた。
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