かえるのおじさま
指先をつないだまま目覚めれば、よろい戸の隙間から砕けるような朝日がこぼれている。

快晴。

それはまさしく祭り日和であった。

カステアの祭りには周辺の小村からも見物の客が集まる。
いつもは麦穂ぐらいしか見る物の無い村に人は集まり、一昼夜を通してにぎわうのだ。

その人出に備えて、ギャロと美也子は、朝から景品を並べたり、小さな看板をたてたりと大わらわであった。

気の早い若い衆などが時折、店先を覗きこむ。
彼らの目的は、村に逗留しているとうわさの『醜怪種の女』に対する興味なのだから、ギャロなどは気が気でなかった。

「おい、美也子」

彼らしからぬ、不機嫌そうな怒鳴り声。
粗相でもしでかしたかと美也子が振り向けば、彼の肩越しにトカゲ顔の男がニヤニヤと笑っている。

夫ぶろうとしているのだと、美也子は合点した。
ならばと、とびきり愛想のいい声を出す。

「なあに、あなた」

トカゲ男が小さく舌打ちした。

「本当に結婚してやがるのかよ」

しかし、この男はしつこい性質であるようだ。
美也子の細い腕に視線をくれる。

「でも、腕輪してないじゃねえか」

ギャロが不機嫌そうに、さらに声を低めた。

「仕方ないだろ。新婚なんだ」

「いくら新婚ったって……普通はプロポーズの時に渡すんじゃ無いのかい?」

「う……うちは、ちょっと複雑なんだよ」

「複雑……ねえ? あれか、嫁さんにするため、醜怪種の集落から無理やりさらってきたとか? なあ、おネエちゃん。そうなら俺が助けてやるよ」

トカゲに良く似た爪のような瞳孔。
それがきゅうっと、さらに、細くなる。
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