かえるのおじさま
だが、行動は大胆だった。

睦事のように腰から先に、美也子を抱き寄せる。

「ら、ラブラブ……なんだ」

トカゲ頭の男は「ははん」と鼻先で笑って立ち去った。
ギャロががっくりと膝を崩す。

「くっそ、恥ずかしいな」

「あら、私が妻なのがそんなに恥ずかしい?」

「とんでもない! 決してそういうわけじゃないんだ!」

「冗談よ。さっさと支度しちゃおう」

「ん、ああ」

隣の屋台ではネロが、果物にかけるチョコシロップを煮はじめている。

これは直火にあてず、湯を張った鍋にチョコの入ったボールを浮かべて作るのだが、それでもカカオのビターな香気は輪投げ屋の簡易な屋台にまで押し寄せる。
すん、と鼻を鳴らせば、舌の上で香りは解け、刺激された味覚にチョコの味を感じた。
単調な渋みの香ばしさではなく、上質な乳の芳醇と、砂糖の甘味に練り上げられた複雑な旨味の総体。
良質なチョコレートだ。

その香りに誘われたついでか、犬顔の少年がひょこりと店先を覗きこむ。
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