かえるのおじさま
「俺の経験上、こっちの方がとりやすいはずだ」

ぺたんと地べたに広がった標的は、分散しやすい子供の集中力をだましてしまうことがある。
尖った部分、ただその一点のみに集中させるほうが子供向きなのである。

それに、これは小さな女の子の腕力を想定して、最前列に置いた。
難易度としては一番低い。

実は美也子は、サービスで最初の一本、二本を配ることを提案した。
祭りの人ごみの中にネックレスをつけた子を実際に歩かせて、宣伝効果を狙おうというのである。

覚えはないだろうか? ちゃっちいビニール製の人形などが、祭りの喧騒の只中、すれ違う人の手の中に在ると、とてつもない特別な宝物のように思えて欲しくなる、あの気持ち。
その効果を狙ってのことだったのだが、ギャロはそれを許さなかった。

輪投げはちょっとした賭け事だ。

金を払ったからといって必ずしも欲しい物が手に入るわけではない。
かと思えば、支払い以上の幸運を手にすることもあって、そのゲーム性こそが子供を惹きつけるのだ。

だから景品を手にするのは勝者のみ、というルールを曲げるわけにはいかない。

「でなきゃ、輪投げ屋だかアクセサリー屋だか分からなくなっちまう」

それに子供たちが欲しがるのは、具体的なモノではないとも。

なるほど、確かに祭り屋台の景品に心惹かれるのは、それが戦利品であるからだ。
勝ち誇った表情の子供の手の中にある物こそ魅力的に見える。
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