かえるのおじさま
彼女の感覚では1世紀ほど『遅れて』いるこちらの文化に、旅座の果たす役割は大きい。
ちょっとした行商の真似事などすることもあれば、情報を運ぶこともある。
それも専門の職ではないゆえ、最先端のものをほんのちょっぴりとだ。
そんな流行の水先である旅座の座長が物語の書き手を副職にするのは珍しい話ではない。
「まったく、いい宣伝になったよ。せいぜい副業のほうで稼がせてもらうから、気にする事は無いよ」
そういいながら座長は長持ちをかき回している。
「もっとも、あの子には内緒にしておきなよ。男って言うのは、すぐいい気になるもんさね」
やっと探し出された古ぼけた書籍は、無造作に美也子の前に投げ出された。
「あの、私、本は……」
「解かってるよ。文字が読めないんだろ、こっちの世界の」
「!」
「そんなに驚くことは無いさね、美也子サン?」
「他のみんなは……」
「ああ、気づいている者もいるだろうね。だけど誰も『ギャロの女房』を売ろうとは思わないさ。そこだけはあの子の人徳だ。感謝しなよ」
ぬちゃりと横広い顔がきゅうっと渋面を作る。
「あんたは、あの子が好きかい?」
「はい」
返事を迷う必要など無かった。野次の飛び交う舞台で抱き上げられた瞬間、はっきりと自覚したのだから。
「冷やかしや、中途半端な気持ちならやめておくれよ。あの子は見た目以上に繊細なんだ。それを読めば解かると思うけどね」
「でも、文字は……」
「明日からあたしのところに通いな。ちょうど『授業』の手伝いが欲しかったんだ。ついでにみっちりと仕込んでやるよ」
のっぺりとした顔が、再び笑顔を浮かべた。
ちょっとした行商の真似事などすることもあれば、情報を運ぶこともある。
それも専門の職ではないゆえ、最先端のものをほんのちょっぴりとだ。
そんな流行の水先である旅座の座長が物語の書き手を副職にするのは珍しい話ではない。
「まったく、いい宣伝になったよ。せいぜい副業のほうで稼がせてもらうから、気にする事は無いよ」
そういいながら座長は長持ちをかき回している。
「もっとも、あの子には内緒にしておきなよ。男って言うのは、すぐいい気になるもんさね」
やっと探し出された古ぼけた書籍は、無造作に美也子の前に投げ出された。
「あの、私、本は……」
「解かってるよ。文字が読めないんだろ、こっちの世界の」
「!」
「そんなに驚くことは無いさね、美也子サン?」
「他のみんなは……」
「ああ、気づいている者もいるだろうね。だけど誰も『ギャロの女房』を売ろうとは思わないさ。そこだけはあの子の人徳だ。感謝しなよ」
ぬちゃりと横広い顔がきゅうっと渋面を作る。
「あんたは、あの子が好きかい?」
「はい」
返事を迷う必要など無かった。野次の飛び交う舞台で抱き上げられた瞬間、はっきりと自覚したのだから。
「冷やかしや、中途半端な気持ちならやめておくれよ。あの子は見た目以上に繊細なんだ。それを読めば解かると思うけどね」
「でも、文字は……」
「明日からあたしのところに通いな。ちょうど『授業』の手伝いが欲しかったんだ。ついでにみっちりと仕込んでやるよ」
のっぺりとした顔が、再び笑顔を浮かべた。