かえるのおじさま
翌日から、美也子は『先生』になった。

こういった旅回りの座には子供がつきものである。
もちろん旅座の中で生まれた子供もいるが、大半は縁あって一座に引き取られた孤児たちだ。

これは実に良く出来た救済のシステムだということを、美也子はつい最近知った。

身寄りも無く、働く術すらない子供に徒弟として寝食の保障を与える。
軽業などは幼い頃からの修行が将来の芸に大きく関わってくるのだから、一座としても無駄な投資というわけではない。

そんな子供たちの面倒をどこまで見るかは座長の性格によるところが大き
いが、少なくともこの座では座長自らが教鞭を取って、最低限の読み書き計算を教えている。 

美也子は算数の助手として抜擢された。

算数なら何の問題もない。
数字が見慣れない形の記号だという以外は美也子の知っている法則と同じなのだから。即ち十進法であり、乗除算、加減算も知っている。
数字さえ覚えれば、子供の算術には困らない。

「ミャコせんせえ~」

舌足らずで擦り寄ってくる小さな両生類頭は、座長の末の娘だ。

出来上がった課題を添削してもらおうというのだろう。
広く離れた小さな瞳をくりくりさせて見上げる姿は、実に子供らしい愛嬌にあふれている。
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