かえるのおじさま
“名前を仮にヒエロとしておこう。
 母親に売られてこの一座に来たとき、彼はまだ5歳だった。 
 誤解の無いように言っておく。北部地方の母親たちは子供を叱るのに「言うことを聞かないと、旅芸人に売ってしまうよ」とよく言うが、そんなことは現実にはありえない。大昔ならいざ知らず、今日の旅座は身寄りのない子供のための互助措置である。親を失った子供たちを無償で引き取るのが本来であって、金銭で人身を買い叩くような、浅ましいことはしない。
 それでも彼が売られた理由は、夫と死に別れた女がひとり、幼子三人を抱えて生きていくには世間は冷たすぎた、それだけの話だ。
 窮したその女は古くからの友人である私の母を恃み、訪ねてきた。一番上の子を預ける代わりに、その子が将来もらうであろう給金を前借させて欲しいというのだ。私の母はその話を受けた。母子に対する救済のつもりであったのだろうが、幼子と引き換えに金をやり取りする姿は、当時の私には『子供を売った』ようにしか見えなかった。
 ましてや、幼かった彼には……”
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