かえるのおじさま
その頃、美也子は座長の家庭馬車に上がりこんでいた。

座長が小間物の箱をあさってくれている間、その娘を膝に上げて、ギャロの半生記の翻訳を手伝ってもらっている。

彼女が知りたがったのは、母親や兄弟に対するギャロの想いであった。

物語の中の彼は道化の職である。それも、遠く王都にまで名の知れた有名道化……。

「ギャロが道化? 考えられないわね」

真面目ぶった蛙面を思い出して、美也子はくすりと笑う。

だが、大きな木箱に顔を突っ込んだまま、座長は実に大真面目な声を出した。

「それに書いてあるのは、全部本当のことだよ」

「だって、有名道化って……」

「間違い無いね。名優だったさ」

毛糸のかせをいくつか引っ張り出しながら、彼女は顔を上げた。

のっぺりとした表情が幾分曇って見える。

「旅座にだけ伝わることわざがあってね、『悲しみ深いやつこそいい道化になる』って、言うんだよ」

滑稽なしぐさを見せるだけでは、人を笑わせることなど出来ない。
おろかな言葉にしてもまた然り。
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