かえるのおじさま
母親の来訪の理由は、呆れたことに金の無心であった。
上の弟は学校に上がる年だ。
名門校への入学を希望するその子の学費をまかなって欲しいというのだ。
人気少年道化師は、溜め込んでいた全財産を母親に渡した。
“素早く木箱をひったくった母親は、いかにも申し訳なさそうにした瞼を引き上げて通り一遍の別れの言葉を述べた。
「あんた、体に気をつけて元気でやるんだよ。座長さんの言うことをよく聞いて、いい子にしておくれね」
「うん。母さんも体に気をつけて、元気な子を産んでね」
無邪気に答える少年の言葉が、痛々しい。
「じゃあ、私はこれで、ね」
「あ、母さん」
「なんだい?」
母親を呼び止めはしたものの、ヒエロは裾をひねって立ち尽くす。
「あの、ね」
「ううん?」
私は彼の欲しがっている物に気づいてしまった。ただ甘えたいのだと。
なりは大きくなったが、彼にとって母親との時間はあの日、売られた瞬間から止まったままなのだ。幼子のようにただ頭を撫でるでもいい、抱きしめてもらうでもいい、そういった形の愛情を、彼は求めている。
しかし、彼がその願いを口にすることはなかった。
「お菓子があるんだ。持って帰ってよ」”
それきり、母親が彼を訪ねてくることは無かった。
上の弟は学校に上がる年だ。
名門校への入学を希望するその子の学費をまかなって欲しいというのだ。
人気少年道化師は、溜め込んでいた全財産を母親に渡した。
“素早く木箱をひったくった母親は、いかにも申し訳なさそうにした瞼を引き上げて通り一遍の別れの言葉を述べた。
「あんた、体に気をつけて元気でやるんだよ。座長さんの言うことをよく聞いて、いい子にしておくれね」
「うん。母さんも体に気をつけて、元気な子を産んでね」
無邪気に答える少年の言葉が、痛々しい。
「じゃあ、私はこれで、ね」
「あ、母さん」
「なんだい?」
母親を呼び止めはしたものの、ヒエロは裾をひねって立ち尽くす。
「あの、ね」
「ううん?」
私は彼の欲しがっている物に気づいてしまった。ただ甘えたいのだと。
なりは大きくなったが、彼にとって母親との時間はあの日、売られた瞬間から止まったままなのだ。幼子のようにただ頭を撫でるでもいい、抱きしめてもらうでもいい、そういった形の愛情を、彼は求めている。
しかし、彼がその願いを口にすることはなかった。
「お菓子があるんだ。持って帰ってよ」”
それきり、母親が彼を訪ねてくることは無かった。