かえるのおじさま
世界中の音が消えたような錯覚、二人だけの静寂。
こんなに離れているのに、お互いの鼓動が聞こえるような気がする。

彼の大きな口がゆっくりと言葉の形に動いた。

口端を横に引いた一音目は、『み』
……ああ、自分を呼んでいるのだ、と美也子は思った。

返事をしようと、唇に言葉をのせる。
彼の、名前の一音目、優しく濁った音……

「ぎゃ……」

無粋な現実が、架空の無音を切り裂いた。

カタツムリ頭の男が頓狂な声を上げる。

「や~らしいなあ。目だけで会話しちゃって」

ギャロは大げさに手を振って否定する。

「そんなんじゃない! そんなんじゃないんだ!」

「ほ~ら、皆さん、お二人の邪魔みたいですし、散りましょうか~」

「そんなんじゃない!」

ニヤニヤ笑いを残しながら解散する背中に叫ぶが、無駄な事。
ギャロは小さくうめいて、美也子を見上げた。

「……そんなんじゃ……ないんだ」
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